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レッドマン症候群という名前は、もう過去の名称なのです。「マン」という男性的な名詞を考慮して、レッドパーソン症候群と呼ばれたこともあるようですが、現在は、レッドネック症候群や、バンコマイシンフラッシング症候群と呼ぶこともあるようです。
バンコマイシンフラッシング症候群は、VFSとも略されます。バンコマイシンの急速注入で生じるアナフィラキシーの“ような”反応で、顔面、頸部、上半身のそう痒性、紅斑性発疹からなり、四肢にも症状が出現します。この症状には、脱力感、血管浮腫、胸痛・背部痛が含まれることがあります。バンコマイシンの注入速度が速い場合にみられますが、注入速度が遅い場合や輸血を数日間行った後にもみられることがあります。点滴開始して約4-10分で出現するか点滴終了後すぐに出現することもあります。数回の投与後、緩徐な点滴でも出現することがあります。90-120分の点滴終了後の遅発性の反応は、バンコマイシン7日以上投与後でも生じうるものです。
バンコマイシンに反応してヒスタミンが大量に放出されやすい人が、人口の未知の割合で存在する可能性が研究によって示されています。VFSのその発生率は、感染患者において3.7~47%と言われています。一般的に「アナフィラキシー反応」は、IgEが介在していますが、「アナフィラキシー”様”反応」であるVFSは、肥満細胞と好塩基球の脱顆粒によって引き起こされます。つまり、IgEや補体などの免疫機構とは無関係にヒスタミンが放出されるものなので、アレルギーとは異なるメカニズムといえます。ヒスタミン放出量はバンコマイシンの用量や注入速度に関連するといわれています。バンコマイシン以外にも、シプロフロキサシン、アムホテリシンB、リファンプシン、テイコプラニンが、肥満細胞や好塩基球の脱顆粒を惹起するので、VFSをきたしうるとされています。
VFSの症状は抗ヒスタミン薬によって緩和できます。アタラックス-P®の前投与は、紅斑や掻痒感を有意に軽減できるとされ、ほか、レスタミン®を1時間かけて1g前投与すると、VFS発生を予防できるとされます。抗ヒスタミン薬や、H2受容体拮抗薬(ガスター®)の併用投与も予防効果があるとされています。VFSが現れた場合は、バンコマイシンの点滴を直ちに中止することが重要です。レスタミン®50mgを静脈内または経口投与すれば、反応をほぼ中止できるとされますが、ポララミン®注5mg静注でもよいと思います。発疹と掻痒感が消失したら、点滴の速度を遅くし、減量して再開可能です。再開速度は、半量や1/4などを検討するのでよいと思います。
参考文献
[1] Sivagnanam S, Deleu D. Red man syndrome. Crit Care. 2003 Apr;7(2):119-20. doi: 10.1186/cc1871. Epub 2002 Dec 23. PMID: 12720556
[2] Sahai J, Healy DP, Garris R, Berry A, Polk RE. Influence of antihistamine pretreatment on vancomycin-induced red-man syndrome. J Infect Dis. 1989 Nov;160(5):876-81. doi: 10.1093/infdis/160.5.876. PMID: 2572652.
[3] Martel TJ, Jamil RT, King KC. Vancomycin Flushing Syndrome. [Updated 2023 Jan 25]. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023 Jan-. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK482506/
文責:チーフレジデント Yo Ishihara
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