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日本人に多い先天性血栓性素因
白人に多い先天性血栓性素因として、V因子Leiden変異、プロトロンビンG20210Aが知られている。米国の教科書をみると先天性素因はこれらが主であるとでてくるのであるが、この変異はアジアにはほとんど存在しない。日本ではアンチトロンビン(AT)欠損症、プロテインC(PC)欠損症、プロテインS(PS)欠損症の頻度が高い。国立循環器病研究センターが一般住民4517人で行った研究ではAT欠損症0.15%、PC欠損症0.13% の頻度があり、また一般住民2690人におけるPS欠損症の頻度は1.12%、女性1.60%と報告されている。PS欠損症は思いのほか、頻度が高いなという印象をもたれないであろうか。
そのプロテインSの凝固活性に影響を与えるPS K195E遺伝子変異というのが先天性血栓性素因として同定された。その保有する頻度は日本人4219人中77人にヘテロ接合体(染色体のかたほうに遺伝子変異)として同定されていることから55人に一人いるということになる。この変異は中国人や韓国人にはみられず日本人に特徴的だそうである。ホモ接合体(遺伝子の両方に変異)の頻度は12000人に一人と推定されている。さてこのヘテロの人(片方の遺伝子に変異)はPS凝固活性はどうなのかというと40-110%と一部には正常に近い人もあることがわかる。だからたまたま検査しても異常とはされない可能性がある。しかしである。ここにもう一つの血栓を促進する因子が加わると血栓ができやすくなるのである。つまり、大きな手術をしたり、外傷をおったり、高度肥満になったり、妊娠したり、経口避妊薬を飲んだりということがおきると、変異を持たない人に比べて血栓ができやすくなるというわけである。だから血栓症の家族歴や、本人のかつての血栓症の既往があったときには、たとえPSの凝固活性が正常であってもヘテロである可能性があり血栓症の再発には注意する必要があります。
田中江里
参考文献 臨床血液 55:8 908-916, 2014
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