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2025.02.15ブログ

血栓症と骨髄増殖性腫瘍MPN

前回は先天性の血栓症の話題でしたので 次に血液系疾患の血栓症をきたす疾患をあげてみます。

骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms, MPN) は,造血幹細胞レベルにおける異常で一系統以上の骨髄系細胞が腫瘍性に増殖する疾患群です。 真性赤血球増加症(polycythemia vera, PV)いわゆる真性多血症,本態性血小板血症(essential thrombocythemia, ET),原発性骨髄線維症(primary myelo­fibrosis, PMF)などが含まれます。これらの疾患では遺伝子変異が病態に大きく関与しており、特にJAK2変異はこれらの疾患の血栓症合併とも大きく関係します。

JAK2遺伝子変異は、真性赤血球多血症の 90%以上, 本態性血小板血症の 約50%,原発性骨髄線維症の約 50%に生じていて、その変異があるとサイトカインの刺激がない状態でも JAK2 (細胞内で細胞増殖にかかわる刺激経路)が常に活性化され細胞の増殖が生じることになり、制御されずに血球が増えることになります。そして大事なことは、JAK2遺伝子変異がある骨髄増殖性腫瘍(MPN)ではそうでないタイプと比べて血栓症の頻度が高いことがわかっています。

骨髄増殖性腫瘍(MPN)ではどのような血栓症が多いのでしょうか。

MPNでは動脈血栓症も静脈血栓症も多くなります。まず動脈血栓症の代表的疾患として脳梗塞,心筋梗塞がありますが、特に脳梗塞は無治療の真性多血症(PV)の主な死因であると報告されていて、脳梗塞になってはじめてPVが診断されることもまれではありません。なぜか多血症では心筋梗塞は発症は比較的少ないとされます。

では静脈血栓症はどうでしょうか。深部静脈血栓症(deep vein thrombosis, DVT)や肺塞栓症(pulmonary embolism, PE)の発症頻度も高いですが、さらに特徴的なことはまれな部位の静脈血栓症が多いということです。その典型例として脳静脈洞や腹腔内静脈血栓症(門脈血栓症,肝静脈血栓症,腸間膜静脈血栓症)の報告が多いです。腹腔内静脈血栓症は症例のうち40~60%の症例において潜在的に骨髄増殖性腫瘍(MPN) が存在し、のちに血球が増加して診断されることもあるようです。Budd-Chiari 症候群の 17.1%,門脈血栓症の 15.4%では,JAK2 変異があるものの,血液学的に MPN と診断されない症例が含まれていたとの報告もあります。よって腹腔内静脈血栓症に遭遇した場合には, 血栓症発症時点では MPN を発症していなくても, JAK2 遺伝子変異をチェックしてそれが陽性なら後年 MPN が発症しないか経過観察するのがいいのではないかと考えられます。

田中江里

参考文献:UP TO DATE

臨床血液 59(2018):8 1034-1041

 

 

尿中アルブミンの増加も心血管系の疾患のリスクであると同時に静脈血栓症のリスクでもあります。昔からネフローゼ症候群は血栓症の比率が高くなるといいます。

 

よって腹腔内静脈血栓症に遭遇した場合には, 血栓症発症時点では MPN を発症していなくても, JAK2 遺伝子変異をチェックしておくことで,後年 MPN が発症しないか注意して経過観察することが可能であると述べている論文もあります。

 

 

 

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